福島・磐梯町サイクリング
空高く馬肥ゆる秋、という言葉を思い出すほど、突き抜けるような青空の秋晴れに恵まれた10月下旬、福島県の磐梯町を訪れました。
磐梯町は、福島県の会津地域にあり、まずは東京から新幹線に乗って郡山駅で降り、車を走らせること約1時間。猪苗代湖と磐梯山に挟まれるような場所にある磐梯町に着きます。
隣接する猪苗代町、北塩原村とともに『磐梯山ジオパーク』に認定され、四季を通してさまざまな表情を見せる町の自然を楽しめる地域です。その磐梯山の山麓に広がる美しいところ、それが磐梯町です。
私は今回、自転車に乗って磐梯町の隅々まで堪能してきました。
ガイドして下さったのは、磐梯町出身のヒルクライマー・穴澤宏之さん。
主に走ったのは<ゴールドライン>と呼ばれる磐梯町の麓から磐梯山まで登っていくルートです。全長17.6kmとそれほど距離は長くないのですが、結構きつい勾配の上り坂が続きます。猪苗代湖を眼下に眺め、九十九折りの先に見える磐梯山の姿が徐々に小さくなっていくと、富士ヒルクライムで走った富士山のスバルラインに似た景色にも思えます。ずいぶん登ったなあと嬉しくなりました。
ゴールドラインの最高点は標高1,194mの北塩原村との境にある磐梯山登山口・八方台にあります。ちょうど紅葉シーズンが始まったため多くの登山客で賑わっていました。
ヒルクライムは苦しいけれども、登った後の下りが気持ちよくて止められません。下りを楽しみに、登りの辛さに耐えている、そんな感じです。でも、サイクリストのなかには登りが楽しくて仕方ない、という「坂バカ」と呼ばれる人もたくさんいます。
サイクリングでは、ヒルクライムだけでなく、磐梯町の街中も走りました。町が誇る酒蔵『榮川酒造』の酒蔵見学などもしました。
磐梯町は日本名水百選にも選ばれるほど”水”がおいしい町。酒造りに大切な水と気候が整う場所で、技を持つ杜氏が丁寧に作り出すお酒はきっとおいしいはず。でも、残念ながら下戸の私にお酒の味はわからないので、かわりに酒粕と日本酒のパウンドケーキを買い、帰っての楽しみにすることにします。
昼食は『七ツ家』で”ばんだい塩麴唐揚げ定食”を頂きました。こちらは東京から磐梯町に移住されたご夫妻が営むゲストハウス内の食事処で、アットホームな雰囲気でほっこりします。
町のシンボルにもなっているのが『慧日寺』。東北では開基が明らかな寺院として最古のものであり、会津地方に仏教文化を広め、最盛期には数千もの僧兵が居たと言われた場所です。
その遺構に朱塗りの金堂や中門が復元され、様々なイベントが開かれるだけでなく、紅葉の時期にはライトアップが施されています。スペシャルティコーヒーが飲めるカフェ「bandai coffee(磐梯珈琲)」もあり、慧日寺を独り占めできる3つしかない特等席からの眺めは格別でした。
サイクリングの終点は『道の駅ばんだい』。
町の中心にあり、登山、サイクリング、ドライブの立ち寄り場所としてももってこい。アウトドアブランドのモンベルも店舗として入っています。忘れ物をしてもここで買い足せるので安心です。福島産のおいしいお米に地元特産の野菜もたくさん売られており、多くの旅行客で賑わっています。
宿泊した『星野リゾート磐梯山温泉ホテル』はゴールドラインのちょうど中間あたりに位置し、猪苗代湖を一望でき、スキーにゴルフ、温泉を楽しめるリゾート感たっぷりの場所です。
現在福島県を訪れる海外からの観光客で最も多いのは台湾からだそうです。ここには英語の他に中国語が話せるスタッフもいるので助かります。ホテル独自で毎日いろいろなイベントを開催しており、平日にも関わらず、連日満室という人気ぶりに驚きを隠せません。食事はビュッフェスタイルですが、名水で育てられたおいしいお米を使ったわっぱ飯に手打ちそば、会津地方の郷土料理・こづゆ(ホタテの貝柱で取った出し汁に、にんじんやきくらげ、里芋、豆麩などを入れたお吸い物)、ニシンの山椒漬け、三五八漬け( 塩が三、こうじが五、米が八の割合で作られる野菜の麹漬け)など、雪国会津地方の特徴ある食がひと通り楽しめます。
磐梯町にはちょっとユニークなご当地キャラ――ロボばんじぃ――があります。
町の名前”バンダイ(磐梯)”の響きが同じというつながりから、オモチャメーカーの『バンダイ』と協力して誕生したこのキャラクター。じぃは"おじいさん"ではなく、 観光名所の慧日寺の「寺」をとって「じぃ」と名付けられたもの。確かに、袈裟を着たロボットのロボばんじぃはなかな個性的です。
人口約3千人の磐梯町。町の規模としては決して大きくないのに、わくわくするような活気を感じるのは、町を代表する佐藤淳一町長の存在があるからに違いありません。2019年に就任した佐藤町長は、民間企業出身らしく、スピードと実行力を武器にデジタル変革戦略室を立ち上げ、国内有数の自治体DX成功モデルとして磐梯町の名前を全国に広めました。お会いした第一印象は、爽やかな笑顔の声も身長も大きな元気いっぱいのスポーツマン。
私が訪れた日も、サイクリングを楽しむために購入したスポーツバイクにまたがって颯爽と役場に現れました。さらにサイクリングに参加していただいたのが、前述のサイクリストの穴澤宏之さん。辛抱強く前を走って引いて下さり、「ここからの景色が最高なんです!」と、ご自身の田んぼまでペダルを回し進んでいきました。
磐梯山の麓に広がる田んぼには、こうべを垂らす稲穂が広がっていて、人生初の稲刈りを体験することができました。青い空に磐梯山と黄金色に染まる大地――磐梯町に暮らす人々にとって当たり前の景色が、私にとっての忘れ難い瞬間です。
『2年後は『愛着人口』3万人の磐梯町を目指しています』
佐藤町長の言葉が耳に残ります。
聞き慣れない「愛着人口」とは、磐梯町への「来訪等の有無や住民であるかを問わず、磐梯町に対して好意を持ったり、温もりを感じたり、愛しんだりといった気持ち持つ人」を示す佐藤町長の造語です。
東日本大震災以来の風評被害の影響で観光客の数はまだまだ戻っていないそうですが、磐梯町を訪れ、磐梯町の人と自然に触れれば、必ず”愛着人”となるはず。
いつか私のサイクリング仲間と一緒に走ってみたい町。
佐藤町長の目指す”愛着人口3万人”はすぐそこにあると思います。