台湾で映画三昧

今回の台湾滞在中、舞台以外は映画三昧でした。
11/23に中華圏最大の映画賞「金馬奨」の授賞式があり、気になる映画の公開が相次いでいたので、久しぶりに映画のはしごをしてお尻が少し痛くなったのですが……どれもすてきな作品で大満足。
見たのは『破・地獄(The Last Dance /ザ・ラスト・ダンス)』『從今以後(All Shall Be Well)』『女兒的女兒(Daughter's Daughter /娘の娘)』『鳳姐(Girl out of the Country)』『春行(A Journey in Spring)』の計5本。前者2本は香港映画で後者3本は台湾映画。
台湾映画も良いのですが、ここ数年は香港映画に良い作品が多く、日本でも公開してほしいと思います。

#『破・地獄(The Last Dance /ザ・ラスト・ダンス)』香港で公開後に大きな話題となっている作品。映画のタイトルにもなっている”破地獄”とは、道教で死者を送り出す際に地獄から解脱させることを目的として、「喃嘸師傅(道士)」が剣で瓦を割ったり炎を飛び越える一連の儀式を指します。死をテーマに、香港の葬儀文化や習慣、さらには同性愛、男尊女卑などの社会問題も織り込まれており、見応えのある作品となっていました。

#『從今以後(All Shall Be Well)』40年以上同棲をし続けているレズビアンカップルが主人公の映画。互いの家族も公認の仲だが、香港では同性婚が認められていないため、婚姻関係にはない二人。ある日突然、一人が亡くなってしまったことから物語が動き始めます。亡くなった本人が生前に希望していた葬儀方法が身内から却下されるだけでなく、「法定相続人」に当てはまらないパートナーは、家を取り上げられてしまうことになり……。同性パートナーが法的に守られないことの悲しみはもちろんですけれども、だれにでも訪れる「死」に対して、生前からきちんと準備しておかなければならないことを改めて考えさせられました。

#『女兒的女兒(Daughter's Daughter /娘の娘)』侯孝賢とシルヴィア・チャンプロデュースの作品。母親とその母親。母親とその娘。その娘とさらにその娘。母娘4代の物語。娘はレズビアン。パートナーとの間に子供をもうけたくてアメリカに渡り、体外受精にチャレンジしていたところ、パートナーと一緒に交通事故で亡くなってしまい、残ったのは「受精卵」だけ。娘の母親はその受精卵をどうするのか……。子供を産む「女」の様々な顔が描かれていました。

#『鳳姐(Girl out of the Country)』80年代から90年代にかけ、台湾に実際に存在していた「茶室」が舞台の作品。茶室とは、ホステスなどがいる特殊喫茶のことで、性的サービスも行われていたといわれています。主人公は台北の茶室で働く女性。歌手になる夢を見て花蓮の田舎町からやってきたものの、現実は厳しく、いつの間にか茶室で働くようになっていました。体を売ることで得たお金は、田舎に暮らす親と幼い弟に仕送りしています。月日が流れ、成人した弟は台北で警察官として働くようになります。茶室で実の弟と再会した女性の運命は……。過去には、茶室で働かせるために未成年女性の人身売買が行われ、社会問題にもなりました。まだ遠くない過去にあった過酷な運命を背負った女性たちに、胸が苦しくなりました。

#『春行(A Journey in Spring)』全編16mmフィルムで撮影され作品。主人公は、山深いところに暮らす決して裕福ではない初老の夫婦。口下手で時には妻にキツイ言葉を投げてしまう夫。阿吽の呼吸で繋がっているが、ある朝妻が起きてこず、見に行けば息が止まっていた。夫は妻の死を受け入れられず、遺体を冷凍庫で保存するという思いもよらない行動に出てしまいます。妻を失ってから気が付く現実。夫は妻に対する愛情や家族に対して溢れる思いをどう昇華させていくのか……。静かで美しい景色を背景に進んでいく物語。基隆や瑞芳で撮影されたことから、私自身の故郷を見ているようで、どこか懐かしく、心に残る映像が多かったです。